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平成27年度【258回~270回】


平成27年度宮城県立がんセンターセミナー

会場:宮城県立がんセンター大会議室
※医学研究者及び医療従事者を主に対象としております。

1.進行胃癌の化学療法ーエビデンスと実際ー

第258回 平成27年4月24日(金)時間:17時30分-19時00分

演者:大塚 和令(当センター 腫瘍内科)
演題:進行胃癌の化学療法ーエビデンスと実際ー

切除不能・進行胃癌に対しては抗がん剤治療が行われる。胃癌に対するキードラッグはフッ化ピリミジン・シスプラチン・タキサン・CPT-11とされるが、分子標的薬のトラスツズマブやラムシルマブも使用可能となり抗がん剤治療の選択肢もより増えてきている。今回は最近の臨床試験から注目されるエビデンスついて概略し、それを治療戦略にどう生かすか考察するとともに、標準治療が行えない症例に対する当科での取り組みについても紹介する。

2.疫学・公衆衛生の視点からのがん対策

第259回 平成27年5月29日(木)時間:17時30分-19時00分

演者:金村 政輝(当センター研究所 がん疫学・予防研究部)
演題:疫学・公衆衛生の視点からのがん対策

疫学は、以前は流行病学と見なされていたが、現在は、人間集団における疾病の分布とその発生原因を研究する科学として位置づけられ、予防のための理論と方法を提供している。その疫学の考え方や方法論を用いた課題解決が公衆衛生とも言える。演者は、公衆衛生の主に実務領域で長らく経験を積んできた。今回、以前行った 検診の有効性評価に関する研究や、医師不足問題に対する調査・研究などの結果を簡単にご紹介しながら、疫学・公衆衛生の視点から、これからのがん対策にどう関わっていくことができるのか、その可能性を論じたい。

3.遺伝性乳がん・卵巣がん症候群 (HBOC) の診療体制の整備―遺伝カウンセラーの立場から―

第260回 平成27年6月30日(火)時間:17時30分-19時00分

演者:安田 有里 先生(石巻赤十字病院乳腺外科部遺伝・臨床研究課 認定遺伝カウンセラー)
演題:遺伝性乳がん・卵巣がん症候群 (HBOC) の診療体制の整備―遺伝カウンセラーの立場から―

乳がん全体の約5%は遺伝性で、なかでも遺伝性乳がん・卵巣がん症候群 (HBOC) の頻度が高いとされる。 遺伝的な乳がん発症リスクを評価し、本人のみならず家族に対しても早期に医療介入を実施することで乳がんの早期発見・早期治療が可能になり、がん死を防ぐことができればその意義は大きいと考える。そのためには医療機関側で高リスク者を拾い上げ、対応策を提示できるシステムが必要である。その方法の1つとして、遺伝性乳がんに特化した問診票による拾い上げが有効と考える。
現在、乳腺外科で取り組んでいる遺伝性乳がん診療体制の整備について述べたい。また、HBOCの最近のトピックスについても紹介したい。

4.DNA損傷と効果的な癌治療

第261回 平成27年7月3日(金)時間:17時30分-19時00分

演者:安井 明 先生(東北大学加齢医学研究所・加齢ゲノム制御プロテオーム寄付研究部門)
演題:DNA損傷と効果的な癌治療

DNA損傷はDNAに変異を起こし癌細胞が生じる最も深刻な原因であるとともに、同時に癌の治療の為に放射線やシスプラチンなどの作り出すDNA損傷が使われて来た。通常、癌が生じるのを抑えているのはDNA修復であるが、癌の治療の際には癌細胞の修復能力は治療の邪魔をする。一般にDNA損傷は細胞増殖をする癌細胞には増殖抑制の効果があるが、増殖する正常細胞も影響を受け治療の副作用が生じる。そこで、癌細胞に特異的な修復欠損を見つけることが効果的な癌治療につながる。癌細胞のアキレス腱を見つけることである。2005年に発表されたPARP阻害剤によるBRCA1/BRCA2変異癌細胞の細胞死は良く知られていて、適用範囲は狭いものの、効果的な治療が期待出来る。昨年、癌細胞が活性酸素種を正常細胞より多く産生しその結果癌細胞中のヌクレオチドプールの酸化が亢進し、それがDNAにとり込まれる前に代謝して変異を抑える機能を持つMTH1蛋白の阻害剤が癌細胞に特異的な細胞死をもたらすと言う発表があり、広範囲の癌に効く可能性があり注目されている。我々は、最近の癌ゲノムシークエンシングで高頻度の変異が見つかったARID1Aを含むSWI/SNFクロマチンリモデリング因子がDNA二重鎖切断のNHEJの修復に必要である事を見つけた。これらの変異細胞は同時にシスプラチンにも感受性で紫外線損傷のヌクレオチド除去修復の機能低下も見つかった。これらの因子の癌細胞での変異や発現欠損は調べた肺がん細胞株で70%を越える事から、多数の癌細胞にはクロマチンリモデリング因子の異常に基づくDNA修復欠損があることが示唆された。
これらの癌細胞のDNA修復欠損という弱点を突いた効果的な癌治療の開発について述べる。

5.創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業を活用した新規降圧剤のスクリーニング

第262回 平成27年7月30日(木)時間:17時30分-19時00分

演者:菅原 明 先生(東北大学大学院学系研究科 分子内分泌学分野・教授)
演題:創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業を活用した新規降圧剤のスクリーニング

平成24年度から文部科学省の主導のもと、創薬プロセス等に活用可能な技術基盤の整備、積極的な外部開放(共用)等を行うことで創薬・医療技術シーズ等を着実かつ迅速に医薬品等に結び付ける革新的プロセスを実現することを目的とした創薬等支援技術基盤プラットフォーム(創薬等PF)事業が開始となりました。東北大学は同事業の拠点の一つとして、これまで化合物ライブラリーのスクリーニングに必要な技術基盤や施設・設備を整備して参りました。本会では
1)創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業の説明
2)東北大学制御拠点の説明
3)制御拠点スクリーニング委託研究の説明
4)東大からの化合物ライブラリー供与の実際
5)創薬等PF事業を活用した新規降圧剤のスクリーニング
に関してお話させて頂きます。本会を契機に、是非、宮城県立がんセンターの多くの先生方に創薬等PF事業にご参加頂き、東北大学拠点の施設・設備をご利用頂きたいと考えております。

6.東北大学における肺移植の現状

第263回 平成27年9月4日(金)時間:17時30分-19時00分

演者:岡田 克典 先生(東北大学加齢医学研究所呼吸器外科学分野・教授)
演題:東北大学における肺移植の現状

肺移植は終末期肺疾患に対する有効な治療法として確立しているが、術後在院死亡率が10%にのぼる侵襲の大きな手術である。また、他の臓器移植に比べ急性・慢性拒絶反応の制御が難しく、国際登録における5年生存率は50%をようやく上回る程度である。東北大学では、これまで87例の肺移植(脳死肺移植75例/生体肺葉移植12例)を施行した。適応疾患としては、肺リンパ脈管筋腫症 (LAM) と肺高血圧症 (PAH) が多くを占める。LAMの移植後には、乳糜胸、対側肺の気胸などに注意が必要である。また、PAHの術後は、左心不全をきたすケースが多く、長期の体外循環を要するなどの問題がある。東北大学における肺移植症例をレビューしながら、肺移植の問題点と展望につき述べる。

7.がん・免疫系におけるノンコーディングRNAの役割

第264回 平成27年9月25日(金)時間:17時30分-19時00分

演者:秋光 信佳 先生(東京大学アイソトープ総合センター・教授)
演題:がん・免疫系におけるノンコーディングRNAの役割

近年、ヒトを含む高等生物のゲノムDNAからはタンパク質をコードしない転写産物が大量に発現していることが判明した。これらはノンコーディングRNAと総称されており、発生分化の制御に重要な役割を担っている。さらに、ノンコーディングRNAは疾患とも深い関係のあることが分かってきている。本セミナーでは、まず、がんと免疫系に働くノンコーディングRNA(マイクロRNAと長鎖ノンコーディングRNA)について概説する。次に、がんと免疫系(自然免疫を主体として)に関係する核局在型長鎖ノンコーディングRNAの最新の研究成果について紹介する。

8.クリニカルシークエンスに基づくがん個別化治療

第265回 平成27年10月2日(金)時間:17時30分-19時00分

演者:河野 隆志 先生(国立がん研究センター研究所 ゲノム生物学研究分野/EPOC-TR 分野 分野長)
演題:クリニカルシークエンスに基づくがん個別化治療

肺腺がんでは、EGFR・ALKがん遺伝子に続き、RETやROS1がん遺伝子の融合が同定され、SCRUM-Japan機構等により、分子標的治療の開発が進められている。一方、がん遺伝子異常が陰性の肺がんや他のがんは、遺伝子変異産物を阻害するような分子標的治療の対象とならない。そこでこのようながんでは、ARID1A/BAF250a・SMARCA4/BRG1等のSWI/SNFクロマチン制御遺伝子群の不活性化変異など、失活遺伝子と合成致死の遺伝子産物を標的とした治療法が新たなストラテジーとして期待される。また今後、複数の遺伝子の異常に対して分子標的治療法を開発していくには、がん組織のマルチプレックス遺伝子検査(クリニカルシークエンス)が必要となる。国立がん研究センターで進めているfeasibility study (TOPICS-1) について報告し、議論の場とさせていただきたい。

9.ヒトiPS細胞を用いた呼吸器再生研究の現状と今後の課題

第266回 平成27年10月23日(金)時間:17時30分-19時00分

演者:後藤 慎平 先生(京都大学医学部付属病院 呼吸器内科 特定助教)
演題:ヒトiPS細胞を用いた呼吸器再生研究の現状と今後の課題

従来、肺は再生能力の乏しい臓器で、ヒト由来の気道や肺胞上皮細胞を無制限に入手することは難しかった。近年、ヒトiPS細胞を用いた分化誘導研究の発展は目覚しく、当チームではCarboxypeptidase Mを表面抗原として前駆細胞を単離し、三次元培養を行なって、気道や肺胞上皮細胞を効率よく分化誘導する手法を確立してきた。重症の呼吸器病患者では肺を入手することが難しい場合もあるが、皮膚や血液からヒトiPS細胞を樹立しておけば、患者由来の呼吸器上皮細胞を無制限に入手することが今や可能となっている。当セミナーではその進捗の報告とこれらの技術を応用した今後の研究の見通しについて、話題を提供したい。

10.染色体不安定性とがん

第267回 平成27年11月13日(金)時間:17時30分-19時00分

演者:田中 耕三 先生(東北大学加齢医学研究所 分子腫瘍学研究分野 教授)
演題:染色体不安定性とがん

ほとんどのがんでは染色体数の異常 (異数性) が見られ、その背景には染色体不安定性 (細胞分裂の際に高頻度で染色体の不均等分配が起こる状態) が存在する。近年がんと染色体不安定性の関連の本格的な解明が進みつつある。解明すべき課題は1)染色体不安定性が生じるしくみ、および2)染色体不安定性から発がんにいたるしくみ、の2つに集約される。このうち1)については近年研究が大きく進展している。われわれは、染色体分配のスムーズな進行を司る機構の異常が染色体不安定性に関与するのではないかと考えており、これについて最近の知見を紹介する。一方2)については未解明な点が多いが、がん遺伝子・がん抑制遺伝子の異常、がん幹細胞などと染色体不安定性の関係性について論じたい。

11.緩和ケアの歩みと現状

第268回 平成27年11月27日(金)時間:17時30分-19時00分

演者:中保 利通(当センター 緩和ケア内科)
演題:緩和ケアの歩みと現状

2007年にがん対策基本法が施行されてから、がん診療連携拠点病院では緩和ケアの提供体制を整備することが求められるようになり、緩和ケアは普及されるべきものとして広く認知されるようになりました。当院でも病診連携を強化すると共に、在宅で療養している患者さんが必要に応じてすぐ入院できる緊急緩和ケア病床を整備することが急務です。がん終末期の良好な症状コントロールを目標のひとつとしてまずはホスピスや専門病棟において始められ、次いで一般病棟におけるがんと診断された時からの緩和ケアチーム活動へと発展するなど、徐々に守備範囲が広がってきた緩和ケアですが、その歩みを振り返り、わが国の現状をお知らせします。

12.ゲノム解析に基づく成人T細胞白血病 (ATL) 発症機構の解明とその対策

第269回 平成28年1月22日(金)時間:17時30分-19時00分

演者:森下 和広 先生(宮崎大学医学部 腫瘍生化学分野 教授)
演題:ゲノム解析に基づく成人T細胞白血病 (ATL) 発症機構の解明とその対策

成人T細胞白血病 (ATL) はHTLV-1感染後数十年を過ぎて発症する難治性白血病であります。発症にはHTLV-1感染に加え、ゲノム・エピゲノム異常の蓄積が重要であるため、統合的ゲノム解析によりその全体像を検討して来ました。ZEB1やNDRG2を始めATLの病態に関連する多くの遺伝子群の単離を行い、さらに診断・予防・治療法の開発も同時に進めております。宮崎で行っているATL基礎研究から臨床応用まで、その概要をお話させていただきます。