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平成22年度【194回~208回】


平成22年度宮城県立がんセンターセミナー

会場:宮城県立がんセンター大会議室
※医学研究者及び医療従事者を主に対象としております。

1.男性生殖器官に発現するリポカリン遺伝子群の発現制御機構

第194回 平成22年5月28日(金)

演者:鈴木 吉也(当センター 生化学部)
演題:男性生殖器官に発現するリポカリン遺伝子群の発現制御機構

リポカリンとはコーヒーカップ型をした分子量約25kDaの分泌蛋白質の総称をいい、進化の過程において様々な機能を有するリポカリンスーパーファミリーを構成するに至った。その機能は、ホルモン輸送、自然免疫応答、抗菌作用、フェロモン、睡眠制御など多岐にわたる。我々は、男性生殖器官内に発現するプロベイシン(前立腺)とリポカリン5(精巣上体)の遺伝子発現機構をモデルに、前立腺癌のホルモン耐性化機構の解明および精巣上体の機能制御による不妊治療の可能性について研究を進めて来た。本講演では、両遺伝子発現制御に共通する重要な転写因子フォークヘッド蛋白質についての最近の知見を紹介する。

2.C型肝炎ウイルス感染における小胞輸送経路の役割

第195回 平成22年6月25日(金)

演者:玉井 恵一(当センター 免疫学部)
演題:C型肝炎ウイルス感染における小胞輸送経路の役割

C型肝炎ウイルス (HCV) は慢性肝炎、肝細胞癌の原因となり、世界中に約1.7億人の感染者が存在する。HCVの細胞内におけるライフサイクルには不明な点が多く、これを明らかにすることは抗HCV薬の開発に繋がる可能性がある。C型肝炎ウイルスはエンベロープウイルスであり、近年エンベロープウイルスのライフサイクルと細胞内の小胞輸送経路との関連が研究されている。我々は、HCVとウイルスの形態に酷似している微小小胞エクソゾームが、いずれも小胞輸送経路ESCRT分子で制御されている可能性を検討したので報告する。

3.白血病、骨髄異形性症候群 (MDS) 、骨髄増殖性疾患 (MPN) の分子生物学

第196回 平成22年7月22日(金)

演者:北村 俊雄 先生
(東京大学医科学研究所 先端医療研究センター細胞療法学 教授)
演題:白血病、骨髄異形性症候群 (MDS) 、骨髄増殖性疾患 (MPN) の分子生物学

我々のグループはレトロウイルスベクターを利用した効率の良い遺伝子導入法と発現クローニング法を開発し、さまざまな方法論によって研究している。本講演ではマウス骨髄移植モデルを利用した以下の研究を通じて得た、白血病、MDSおよびMPN発症の分子機構についての研究成果を紹介する。
1)転写因子AML1/Runx1変異によるMDSモデルマウスと白血病への進展
2)慢性骨髄性白血病急性転化 (CML-BC) モデルマウスとヒトCML-BCの原因究明
3)転写因子C/EBP?の2種類の変異が協調して発症する白血病マウスの解析
4)AID発現によるin vivo造腫瘍性
5)発現クローニング法を利用したクラスI変異同定の試み

4.日本の医療及び教育の問題点について

第197回 平成22年7月23日(金)

演者:嘉山 孝正 先生(国立がん研究センター 理事長)
演題:日本の医療及び教育の問題点について

嘉山先生は東北大学の脳外科教室のご出身です。山形大学の附属病院長、医学部長を長年務められ、また現在、中医協の委員として我が国の医療政策の見直しにおいても活躍されています。さらに本年4月に国立がん研究センターの初代理事長に就任され、我が国のがん医療の舵取り役を務められています。本講演会では、がんセンターの組織改革や運営改善に取り組まれている先生に、我が国の医療政策の課題を始め、ご専門の脳腫瘍の将来展望を含めたがん医療の在り方、地方がんセンターへの期待など、大所高所からのお話が伺えるものと思います。

5.腫瘍血管新生制御の分子基盤

第198回 平成22年7月30日(金)

演者:佐藤 靖史 先生(東北大大学加齢医学研究所・腫瘍循環研究分野 教授)
演題:腫瘍血管新生制御の分子基盤

血管新生は、癌の進展・転移と深く関わっていることから、その効果的な制御法の確立が求められている。血管新生は促進因子と抑制因子の局所バランスによって制御されており、促進因子についてはVEGFを初めとして機能解析は進んでいるが、抑制系については不明な点が多い。我々は、血管内皮細胞が産生し、自らに作用して血管新生を抑制するネガティブフィードバック調節因子vasohibin-1 (VASH-1) と、そのホモログvasohibin-2 (VASH-2) を単離・同定し、VASH-1は血管新生の終息と新生血管の安定化に寄与するのに対し、VASH-2は逆に血管新生を促進することを明らかにした。講演では、vasohibin familyのがんにおける意義について最近の知見を含めて紹介する。

6.一流の田舎を目指して、呼吸器外科よもやま話

第199回 平成22年8月18日(水)

演者:佐藤 雅美(当センター 呼吸器外科)
演題:一流の田舎を目指して、呼吸器外科よもやま話

宮城県立がんセンター呼吸器外科での最近6年間のさまざまなエピソードを紹介する。
呼吸器外科ではこの6年間に840例の手術を行った。うち肺血栓症で術後14日目に1例失った以外、大きな合併症なく、術後を乗り切れた。そのほかにも、上葉切除では上縦隔リンパ節を一塊として摘出する新しい術式の開発、東北地方初の肺癌CT住民検診や気管支OCT、肺門部肺癌の全国実態調査、東北地方における多施設共同研究の提案(2件)などを行ってきた。コンセプトは”一流の田舎”であれば良いのだ。しかしながら、この間にスタッフ3名が負傷あるいは罹患した。発想の転換やシステムの変革が必要なのではないか。職務を全うしながら楽しく仕事ができる方法はないかなど、考えてみたい。

7.免疫アジュバントと抗腫瘍免疫

第200回 平成22年9月10日(金)

演者:高津 聖志 先生(富山県薬事研究所 所長)
演題:免疫アジュバントと抗腫瘍免疫

がんの治療法として一般的に外科療法、化学療法、放射線療法がよく知られている。宿主の免疫力を増強することによりがん細胞の排除をめざす免疫療法も近年注目されており、その有効性も科学的に証明されている。BCGや結核菌由来タンパク質は免疫賦活作用を有し、外来抗原のみならず内在性のがん細胞に対する免疫を高める。結核菌対成分のアジュバント活性の基礎研究に基づき、細胞傷害性T細胞の生成や活性増強、マウスを用いた抗腫瘍免疫増強効果について話題を提供したい。時間が許せば、がん細胞の産生する免疫抑制物質に対する阻害剤の探索研究に関する最近の話題を提供したい。

8.膵癌とEpithelial to mesenchymal transition (EMT)

第201回 平成22年10月8日(金)

演者:佐藤 賢一(当センター 臨床研究室)
演題:膵癌とEpithelial to mesenchymal transition (EMT)

膵臓癌は有効な治療法のない最も予後不良な癌のひとつであり、我が国では手術例を含めた5年生存率は10%以下である。予後不良な原因として、浸潤傾向が強く転移能が高い点が挙げられる。Epithelial to mesenchymal transition (上皮間葉形質転換、EMT) は、発生過程で杯上皮細胞が間葉系細胞の形質を得て細胞移動する現象を指し、上皮由来の癌が転移能を獲得する際にも認められることが示唆されている。
本セミナーでは、自身のデータを中心に膵癌におけるEMTの役割、EMT関連分子の発現解析による臨床応用の可能性について述べる。

9.TGF-βシグナルによるがん幹細胞の機能制御

第202回 平成22年10月22日(金)

演者:宮園 浩平 先生(東京大学大学院医学系研究科分子病理学分野 教授)
演題:TGF-βシグナルによるがん幹細胞の機能制御

がん幹細胞は、腫瘍全体を構成する細胞群の元となる細胞である。がん幹細胞はin vivoで強い腫瘍造成能を有し、抗がん剤や放射線治療に抵抗性であることが知られており、がんの治療後の再発においても大きな役割を果たしていると考えられている。我々は脳腫瘍幹細胞の強い腫瘍造成能がどのように保たれているかを検討し、TGF-βが脳腫瘍幹細胞の維持に寄与していることを明らかにした。
本セミナーでは脳腫瘍、スキルス胃癌を中心にTGF-βシグナルによるがん幹細胞の機能制御について紹介する。

10.個別化がんペプチドワクチン

第203回 平成22年11月5日(金)

演者:伊東 恭悟 先生(久留米大学医学部 免疫・免疫治療学)
演題:個別化がんペプチドワクチン

最近がんペプチドワクチン開発が急速に進展した。個別化ペプチド投与、多数ペプチド投与、抗がん剤併用等が生命予後延長に寄与している。久留米大学では進行性膠芽腫例21例中PR5例、SD8例、PD8例と良好な成績を報告した。(1)
更に進行再燃前立腺がん症例に対するランダム化比較試験を実施して極めて優れた臨床効果は得た(無増悪生存期間:ワクチン群8.5カ月 vs 標準治療群2.8カ月, p=0.0012) 。(2)
全生存期間でもワクチン群が勝っていた。このがんワクチンは患者個々人の投与前のがん免疫力を重視したテーラーメイド型ペプチドワクチンである。同ワクチン療法は2010年5月18日高度先進医療に採択された。

References
1)Yajima N, et al. Clin Cancer Res. 11:5900 (2005)
2)Noguchi M, et al. Cancer Immunol. Immunotherapy Published online: February 10 (2010)

11.RNAiによるがん幹細を標的とした治療戦略

第204回 平成22年11月12日(金)

演者:落谷 孝広(独立行政法人 国立がん研究センター研究所 がん転移研究室)
演題:RNAiによるがん幹細を標的とした治療戦略

がんの治療抵抗性を担う存在として「がん幹細胞」は固形腫瘍においてもその生物学的意義が広く知られるようになった。我々は乳がんの抗がん剤耐性を制御する分子としてribophorin II (RPN2) という分子を見いだしているが (Honma et al., Nat Med, 2008)、このRPN2は乳がんの「がん幹細胞」とされるESA+/CD44+/CD24-の分画に特異的に発現している事が明らかとなり、RPN2shRNAによるノックダウンは、がん幹細胞の生物学的特徴である造腫瘍性、薬剤耐性、転移などの能力を顕著に抑制した。さらに、このRPN2を制御しているmicroRNAは乳がんの悪性度と強く相関していた。このようにがん幹細胞の特徴を、薬剤耐性、転移という患者を死に至らしめる2大要素の側面から追求し、その性質をsiRNAやmicroRNAなどのRNAiにもとづく手法で制御する事でがんを治療、根絶する新たな戦略について紹介する。

12.ヒト白血病幹細胞

第205回 平成23年1月14日(金)

演者:赤司 浩一 先生(九州大学医学研究院 病態修復内科 教授)
演題:ヒト白血病幹細胞

腫瘍組織は少数の腫瘍幹細胞 (Cancer stem cells) に由来し、腫瘍幹細胞の根絶こそが治癒と同義であると考えることができる。造血器悪性腫瘍においては、フローサイトメトリーによるヒト白血病幹細胞の濃縮、そのヒト白血病をマウスの中で再構築するためのin vivoアッセイシステムの開発が進んでいる。さらに分子生物学的情報を基に、マウス細胞を用いて、幹細胞や前駆細胞から白血病幹細胞への変化過程を再構築できる。
本口演では、ヒト白血病幹細胞の成立過程とその同定・アッセイ系についての我々の最近の研究成果を取り上げ、白血病幹細胞を標的とした新しい治療法開発の可能性を議論する。

13.癌幹細胞の性状解析と新たな治療戦略の考案

第206回 平成23年2月4日(金)

演者:佐谷 秀行 先生(慶應義塾大学医学部先端医科学研究所 遺伝子制御研究部門 教授)
演題:癌幹細胞の性状解析と新たな治療戦略の考案

近年、癌組織は自己複製能を持ち半永久的に子孫細胞を作り続けることのできる細胞(癌幹細胞)と、最終的には増殖能を失う大多数の細胞(非癌幹細胞)の二群から構成されていることが明らかになりつつある。癌幹細胞は、抗癌剤や放射線治療に抵抗性を示し、それを破壊することが癌の根治を目指すためには必須である。
本セミナーで誘導型癌幹細胞 (iCSC) を用いた癌幹細胞の性状解析と、癌幹細胞のマーカーとして注目されているCD44の新しい機能について解説し、このような所見から今後どのように治療戦略のパラダイムが変化するかについて討論したい。

14.心からの"笑医"で元気になれる処方箋とは

第207回 平成23年2月19日(金)

演者:高柳 和江 先生(東京医療保健大学 教授)
演題:心からの"笑医"で元気になれる処方箋とは

15.これからのがん対策ー宮城の現状と展望についてー

第208回 平成23年2月19日(金)

演者:久道 茂 先生(公益財団法人宮城県対がん協会 会長 東北大学名誉教授)
演題:これからのがん対策ー宮城の現状と展望についてー

わが国のがんによる死亡数は、346,523名(2007年の人口動態統計)で全死因の31.2%を占め、日本人の3人に1人ががんで死亡する。罹患数は、全がん568,781名(男女、2001年)で順位は男で胃、大腸、肺、肝臓、前立腺で、女では大腸、乳房、胃、子宮、肺の順である。宮城県のがん死亡数は5,890名(2006年)、罹患数は10,956名(1998-2002年間の年平均)となっている。
平成19年4月1日に施行されたわが国の「がん対策基本法」には、がん対策を総合的かつ計画的に推進するため基本法第9条にがん対策推進基本計画を策定することとされている。重点施策として
1)がん予防及び早期発見の推進
2)がん医療の均てん化の促進等
3)研究の推進
等があげられている。がんの早期発見で言えば今後5年間で受診率50%を目標にしている。そしてその他の施策を総合的に行い10年以内に全がんの死亡者を75歳未満の年齢調整死亡率で20%減少させるとしている。かなり具体的な数値が示されている。

がんの対策で最も重要な1次予防は、これまでたばこ対策以外明確で具体的な方法がなかったが、近年の死亡率と罹患率の推移から、肝炎対策による肝がんの減少が明らかになり、また、近年は子宮頸がん予防のためのワクチン接種事業が普及し始めており、胃がんについてもヘリコバクターピロリ菌の除菌の胃がん予防効果が検討されつつある。

一方、がん死を防ぐための2次予防対策として広く普及しているがん検診が、実は欧米と比べて受診率(乳がん、子宮がん、大腸がん)がまだまだ低い事が明らかとなり、欧米にはない胃がん検診とともに、その受診率拡大策が重要課題となっている。このような時にこそ、受診率の算出及びモニタリング方法、対象年齢の適正化、検診精度(スクリーニング精度とプログラム精度)、などについてがん検診の原点に立ち返って再検討する必要があるのではないか。

本講演では、厚労省研究班のJoinpoint分析によるがん罹患率と死亡率の推移、有効性評価に基づく検診ガイドラインに関する最近の議論の紹介し、不確実性の多い保健・医療における意思決定を、いかに論理的かつ理性的に行うか、これを臨床疫学、統計学など様々な領域の学問や知識を用いて「判断する」ための手法・学問である「医学判断学」をがん検診に特化した「がん検診判断学」を提唱する。最後に、独法化された国立がん研究センターの現況を紹介し、県立がんセンターの今後の役割について考察する。