グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



平成24年度【218回~233回】


平成24年度宮城県立がんセンターセミナー

会場:宮城県立がんセンター大会議室
※医学研究者及び医療従事者を主に対象としております。

1.治療抵抗性の消化器癌幹細胞:その理解と制御、そして根絶へ

第218回 平成24年5月22日(火)

演者:石井 秀始 先生(大阪大学大学院先進化学療法 教授)
演題:治療抵抗性の消化器癌幹細胞:その理解と制御、そして根絶へ

癌の治療を困難とする最大の要因は腫瘍の遺伝的多様性である。このことは古くから指摘されていたが、それが体性幹細胞に類似した癌幹細胞のシステムの異常に根源があるとようやく理解できるようになってきた。私達は消化器癌の癌幹細胞マーカーの同定と機能解析を通じて、治療抵抗性の癌幹細胞にある共通点を見いだした。効果的な新しい治療として、癌細胞の悪性プログラムを矯正 (reprogram) あるいは制御できるのであろうか。本セミナーでは癌幹細胞を根絶するために最近の内外の知見を踏まえながら考えたい。

2.NOD1およびInterleukin-8遺伝子多型のHelicobacter pylori陽性逆流性食道炎発症に与える影響

第219回 平成24年5月25日(金)

演者:及川 智之(当センター 消化器科)
演題:NOD1およびInterleukin-8遺伝子多型のHelicobacter pylori陽性逆流性食道炎発症に与える影響

H.pylori感染によって胃粘膜萎縮が進展するため、胃酸分泌は低下する。このため、一般的にはH.pylori感染は逆流性食道炎発症に抑制的に働く。しかし、H.pylori陽性者の一部でも逆流性食道炎を発症することも知られている。その理由の1つとして、遺伝子多型によるH.pyloriに対する宿主免疫応答の差が考えられる。NOD1は、H.pylori感染においてNFkBを介したIL-8産生などを惹起する自然免疫応答に関与する細胞内受容体タンパクである。NOD1およびIL-8の遺伝子多型に着目し、H.pylori陽性逆流性食道炎発症に与える影響を検討した。

3.潰瘍性大腸炎の感受性遺伝子検索の現状と臨床への展開

第220回 平成24年6月8日(金)

演者:相澤 宏樹(当センター 消化器科)
演題:潰瘍性大腸炎の感受性遺伝子検索の現状と臨床への展開

潰瘍性大腸炎(以下UC)は原因も根治的治療も不明の疾患である。炎症発癌 (Colitis-associated colorectal cancer:CAC) で致命的な経過を辿ることも多い。
UCの発症には遺伝的因子と環境的因子が複合的に関連していると考えられている。遺伝的要因として日本人ではHLA-B遺伝子が相関する事が示されていたが、genome-wide association studyによる検討でもほぼ同様の結果であった。従来のgenome解析手法には限界があると考える向きもあり、epigenetics的検討や、新たなgenome解析の手法での検討も始まっている。
臨床的に生命予後に直結するCACは、早期発見に向けて大腸の拡大内視鏡観察を基本とし、狭帯域光観察 (NBI) や自家蛍光観察 (AFI) 等を用いて早期発見を試みる検討が行われている。症例も交えつつお示ししたい。

4.疾患ゲノム研究時代における、包括的同意に基づくがんのバイオバイキング考察

第221回 平成24年7月6日(金)

演者:吉田 輝彦 先生
(国立がん研究センター研究所 副所長 遺伝医学研究分野長)
演題:疾患ゲノム研究時代における、包括的同意に基づくがんのバイオバイキング考察

2001年にヒトゲノム配列の草案が発表された頃から、疾患研究はゲノムの時代に入りました。技術も日進月歩で、「観察研究」においては、現在の知識や洞察に基づく特定の仮説に頼らない、網羅的解析が世界でも盛んに用いられるようになってきました。そのような研究に必要な研究基盤は「包括同意に基づくバイオバンク」です。遺伝子の病気であるがん研究はそのような時代を先導してきましたが、がんが他の疾患と異なるのは、がん組織等の病変部と、がんの宿主となる人の正常細胞・組織の両方の研究が必要な点です。国立がん研究センターでは2002年から主としてがん組織のバンキングを開始し、2011年から後者の正常細胞の代表である末梢血のバンキングを追加しました。その経験と、担当者の一人として今後の課題と考えていることをご紹介します。

5.がんの発生・進展過程の多様性とその分子基盤の解明に向けて
ー新たな機能的評価系の確立の試みー

第222回 平成24年8月3日(金)

演者:中釜 斉 先生(国立がん研究センター 研究所長)
演題:がんの発生・進展過程の多様性とその分子基盤の解明に向けて
ー新たな機能的評価系の確立の試みー

がんは、様々な外的環境要因により誘発される遺伝子変異やメチル化等のエピジェネティックな変化が多段階的に蓄積することにより発生する。次世代シークエンスを用いた全ゲノム解析により、個々のがん組織には数千~数万個の遺伝子変異が存在し、アミノ酸置換を伴う変異も数十~百個以上存在することが明らかにされた。この内、がんの発生・進展過程に主導的な役割を果たすドライバー変異の数は高々~10個程度と考えられているものの、がん組織中の個々のがん細胞は極めて高い多様性を呈していることが分かる。多様な遺伝子変異の存在に基づいて、がん成立に至る過程をin vitroで再構築することにより、がん化過程のキーポイントとなっている事象の解明とゲノム情報に基づいた個別化医療の実現を目指す。

6.膜型マトリックスメタロプロテアーゼによる多様ながん組織制御機構

第223回 平成24年9月7日(金)

演者:清木 元治 先生(東京大学医科学研究所 腫瘍細胞社会学分野)
演題:膜型マトリックスメタロプロテアーゼによる多様ながん組織制御機構

がんは、がん細胞に加えて、様々な細胞種と細胞外基質によって構成されています。がん細胞の異常な増殖、浸潤・転移、上皮間葉転換、幹細胞化という複雑な現象も、がん組織における細胞間相互作用に依存しており、正常とは異なるがん組織特有の協調的平衡関係から生じると考えられます。プロテアーゼは、細胞間相互作用を担う様々なタンパク質の機能をプロセッシングによって制御する重要な役割を担っています。我々は膜型プロテアーゼ (MT1-MMP) を中心として、がん組織制御に関わる重要分子を探索し、新たながん組織制御手法の開発することを目指しています。今回は、最近の成果を中心としてその一端をご紹介します。

7.膵癌治療の新しい展開ーfrom bedside to benchー

第224回 平成24年9月14日(金)

演者:海野 倫明 先生(東北大学 消化器外科学分野)
演題:膵癌治療の新しい展開ーfrom bedside to benchー

膵癌は現在においても5年生存率は約10%という最難治癌である。これまで外科医は膵切除、拡大リンパ節郭清、門脈合併切除などの様々な工夫を凝らしてきたが、その成績向上は緩徐であった。一方、塩酸ゲムシタビンの登場により術後補助化学療法が標準治療となり治療成績は大きく向上した。さらに現在では、術前補助化学(放射線)療法が注目され、日本全国規模のRCTが始まろうとしている。一方臨床検体を用いた基礎研究の発展により、塩酸ゲムシタビン耐性機序が明らかとなり、また新たなバイオマーカーも見出されつつある。膵癌治療のブレークスルーを目指した我々の取り組みをご紹介したい。

8.RET融合遺伝子:肺がん個別化医療拡大の試み

第225回 平成24年10月12日(金)

演者:河野 隆志 先生(国立がん研究センター研究所 ゲノム生物学研究分野長)
演題:RET融合遺伝子:肺がん個別化医療拡大の試み

最も高頻度な組織型の肺がんである肺腺がんの半数はEGFR、KRAS、ALKがん遺伝子の活性化に依存して発生する。EGFR、ALKタンパク質を標的としたチロシンキナーゼ阻害薬はEGFR遺伝子変異、 ALK遺伝子融合を持つ肺腺がんに治療効果を示す。私たちは高速シークエンサを用いた全転写産物シークエンシングにより、肺腺がんの1-2%に存在するRET融合遺伝子を新たな治療標的がん遺伝子として同定した (Kohno et al, Nat Med, 2012) 。現在、RET融合陽性肺がんに対するRETチロシンキナーゼ阻害薬vandetanibの医師主導第2相治験を計画し、来1月の始動に向け、診断法の確立等の準備を進めている。遺伝子異常に基づく肺がんの個別化治療の実現について議論したい。

9.がん臨床試験の統計的側面ー最近の事例をふまえてー

第226回 平成24年11月30日(金)

演者:森田 智視 先生(横浜市立大学学術院医学群 臨床統計学・疫学)
演題:がん臨床試験の統計的側面ー最近の事例をふまえてー

臨床試験は大きく第Ⅰ相、第Ⅱ相、第Ⅲ相の3つの相に分けて段階的に実施され、“お決まり”の試験デザインと解析方法がこれまで用いられてきた。最近ではどういった治療法を開発するのかというコンセプトの証明を行っていくことが重要視されている。そのため既存のデザインでは対応しきれず、臨床的リクエストに対応した様々な試験デザインや統計的手法が提案され、実際に適用され始めている。特に癌領域では多くの分子標的薬の開発が盛んに進められており、標的集団を意識した開発戦略が活発に議論されている。本講演では、まず試験結果を解釈する際に知っていた方がよいと思われる臨床統計の基礎的事項を簡潔にまとめる。その上で、最近よく目にする、結果の解釈が単純ではない事例、例えば、生存曲線が途中で交差したケースなど、を紹介しながらそれらの統計的解釈を議論する。最後に、新しく用いられるようになってきた試験デザインの適用事例を紹介する。

10.みんなで考える抗がん剤曝露対策

第227回 平成24年12月20日(木)

演者:照井 健太郎 先生(がん化学療法看護 認定看護師)
演題:みんなで考える抗がん剤曝露対策

近年、がん化学療法は急速に普及しています。がん化学療法が安全・安楽に行えるようレジメン管理や副作用マネジメント等の検討がなされています。「安全に投与する」という視点では抗がん剤の正しい取扱いが必要であり、日本病院薬剤師会では抗悪性腫瘍剤取扱い指針を作成しています。しかし抗がん剤を取扱う機会が多い看護師の業務内容に関する指針はありません。そのため看護師が行う現状の方法は各病院によって異なっているのが現状です。その方法が正しいものなのか、それとも改善すべきなのか、この答えを出すには曝露について皆が共通した認識で取り組む必要性があります。
講演の内容としましては抗がん剤の取扱いに関する対策方法を含めた曝露問題についてであり、「今やるべきことを考える」きっかけにして頂きたいと思います。

11.消化器癌を遺伝子改変ウイルスで見て治す技術開発

第228回 平成25年1月11日(金)
演者:藤原 俊義 先生(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器外科学)
演題:消化器癌を遺伝子改変ウイルスで見て治す技術開発

消化器癌に対して、私たちは鏡視下手術やロボット支援手術、分子標的治療などを試みている。しかし、低侵襲手術後のQOLの向上や進行癌の術前治療によるダウンステージングなど、まだまだ課題は多い。ウイルスは遺伝子を有し、他の生物の細胞を利用して増殖する。その多様な機能を遺伝子工学的に制御することで、生命科学や医療の分野で大きく貢献している。私たちは、テロメラーゼ依存性に癌細胞で増殖する遺伝子改変アデノウイルスを作成した。G1期に留まる冬眠状態の癌幹細胞や低酸素環境にある癌細胞を殺傷することができ、GFP蛍光遺伝子を搭載することで血中循環癌細胞 (CTC) や上皮間葉転換 (EMT) を生じた癌細胞の検出にも有用である。本セミナーでは、遺伝子改変ウイルスの臨床応用の可能性を紹介する。

12.このままでは潰れてしまう 日本のがん医療

第229回 平成25年1月25日(金)

演者:江角 浩安 先生(国立がん研究センター東病院 院長)
演題:このままでは潰れてしまう 日本のがん医療

団塊の世代が高齢者となりこのまま行けばがん患者が急増することになる。10年ぐらいの間に現在の年間60-65万人のがん患者発生が90-100万人に増加すると予想されている。ところが、国のがん対策はこの事に対して殆ど何も対策らしきものを採っていない。せいぜい、昨年の診療報酬改定で在宅医療の促進を打ち出した程度である。とても今本当に必要なこと、次の時代に必要なこと、研究も対策も充分に考えられているとは思えない。がんを専門とするものとして、社会や政治を憂うるだけで無く医療者医学者として何が出来るかを考える必要がある。

13.高精度放射線治療技術の臨床応用

第230回 平成25年2月9日(金)

演者:神宮 啓一 先生(東北大学大学院医学系研究科 放射線腫瘍学)
演題:高精度放射線治療技術の臨床応用

現在、「がん」の三大療法として「手術療法」「化学療法」と「放射線療法」が挙げられます。しかし、日本における放射線治療利用率が、欧米ではがん患者さんの約60%であるのに対し、約30%であるといった状況にあります。近年増加してきてはいますが、放射線治療医は慢性的な不足であり、がん治療の均てん化ができない状況にあります。
1995年以降のいわゆるIT革命により、機械技術に依存する放射線治療装置の画期的な発展は現在も続いており、近年では高度な技術開発がなされており、定位放射線治療や強度変調放射線治療、粒子線治療など様々な治療技術が実臨床において使用されています。またより照射精度を上げるための技術として画像誘導装置の開発も進んでいます。これらを使いこなすことで、放射線障害を減少させQOLを維持しつつ、ひいては処方線量の増加により様々な疾患で年々、治療成績の向上が得られており、当施設からも報告をしております。また、新たな画像技術を用いて、更に精度の高い放射線治療への応用を研究しています。疾患によっては手術療法と同等の治療成績が得られるようになってきました。しかし、前述しましたように放射線治療医の不足のため先進の装置があっても満足に使いこなせないことが多々ありますが、近年、放射線治療医を補助、また治療装置のQA/QCを担う放射線医学物理士といった職種が作られました。当科では大学院の医学物理士養成コースを作り医学物理士を育て排出しています。今回の講演では、上記のような放射線治療の現況や我々の研究内容、最新の放射線治療技術について紹介いたします。

14.遺伝子治療用HIV由来 ベクター:パッケージングと挿入変異

第231回 平成25年3月5日(火)

演者:竹内 康裕 先生(Reader, Division of Infection and Immunity, University College of London)
演題:遺伝子治療用HIV由来 ベクター:パッケージングと挿入変異

竹内先生は、23年間英国ロンドンで、遺伝子治療,主にベクター開発と安全性に関連の研究に携わってこられました。数年前に、Continuous lentiviral vector packaging cell lines (Nat Biotech 2003, 21: 569-57) を発表され、最近は、clinical-grade の次世代パッケージング細胞の開発にも成功されています。更に、X-SCID 治療試験で起きたベクター挿入変異による発ガンを抑えることを目的に開発している、cell-line based insertional mutagenesis assaysについても言及してくださいます。

15.Metabolic Information Highwaysー個体レベルでの糖・エネルギー代謝制御機構ー

第232回 平成25年3月12日(火)

演者:片桐 秀樹 先生
(東北大学大学院 医学系研究科 代謝疾患医学コアセンター/東北大学病院 糖尿病代謝科)
演題:Metabolic Information Highwaysー個体レベルでの糖・エネルギー代謝制御機構ー

ヒトなどの多臓器生物においては、各臓器の代謝は協調して調節されているはずであり、その破綻が糖尿病や肥満につながると想定される。我々は、この個体レベルでの代謝恒常性を維持する機構として臓器間神経ネットワークを発見し (Cell Metab 2006, Science 2006, Science 2008, Cell Metab 2012など) 、末梢臓器の代謝情報が脳に伝わり、膵β細胞の増殖や褐色脂肪のエネルギー消費調節につなげる指令を送る仕組みを見出した。さらに、動脈硬化研究を進めるうち (Circulation 2008, Circulation 2011)、血管内皮細胞での炎症を抑制することで長寿マウスの作製に成功した (Circulation 2012) 。本セミナーでは、臓器ネットワークと肥満・糖尿病・老化における意義について議論したい。

16.HCV感染による細胞の代謝変化および炎症性サイトカイン産生制御

第233回 平成25年3月15日(金)

演者:下遠野 邦忠 先生(国立国際医療研究センター 肝炎免疫研究センター 特任部長)
演題:HCV感染による細胞の代謝変化および炎症性サイトカイン産生制御

HCV感染は肝がん発症の危険因子のひとつで、わが国では肝がん患者の約8割がHCV陽性である。HCV感染がどのようにして細胞をがん化に向かわせるかについての研究がされているが、いまだに本質的なことは不明のままである。一方、抗HCV剤の開発が進み感染者からのウイルス排除に向けた進展は大きい。近年、肥満による肝疾患が肝がんの発症リスクになるといわれており、脂肪代謝と肝発がんとの関連性を示唆している。HCV感染細胞では脂肪代謝が活性化され、増加した脂肪滴周辺で粒子生成が行われる。また、脂肪成分を放出する細胞の機能を利用して粒子が外に放出されるなど、HCVの生活環と宿主の脂肪代謝との関連性は高い。一方、C型肝がんの発症率は炎症の度合いが高いと増加する。HCV感染により炎症性サイトカイCXCL8の産生が亢進するが、その際の新たな機序を見出した。また、HCV感染細胞と肝星細胞とのクロストークの解析から、HCV感染細胞は星細胞が産生するサイトカイン刺激によりMIP1betaの産生増加させることを見出した。これらのことからHCV感染細胞の周辺では好中球や細胞障害性T細胞の誘因が誘導されそれが炎症を惹起することが考えられた。