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呼吸器外科【診療内容】


診療内容

肺がん

<はじめに>

国内の5大がんの罹患数と死亡数

国立がん研究センターの統計によると、国内の肺がん患者数は増え続けています。毎年7万人を超える方が肺がんで亡くなっており、肺がんによる死亡者数は全てのがんのワースト1位となっています。
2019年に肺がんと診断された人は12万人強で、人口1,000人に1人の割合です。総人口約230万人の宮城県では1年間に2,000人以上の人が肺がんという診断を受けたことになります。
<早期発見の重要性>
肺がんは早期発見が非常に重要ながんで、肺がんと診断された時には手術が出来ないくらいに進行してしまっている方が、手術できた方の2~3倍の人数になっています。

肺がん治療患者数

(2020年7月19日付の読売新聞 (宮城・福島版) による宮城県内の主要な病院の肺がん治療患者数。)
肺がんに罹患されるのは多くは65才以上の高齢者で、その年代の方はほとんどが市町村の住民検診の対象となります。しかし宮城県の住民検診の受診者数は平成10年ころをピークに減り続けており、現在は毎年約22万人程度に低迷しています。切除できない肺がんを減らすために、より多くの方に肺がん検診を毎年受けていただくことが重要です。
宮城県立がんセンターの呼吸器外科に所属する医師は、「宮城県肺がん対策協議会」の診断委員にも指定されいます。毎年当センターに割り当てられる4万人分のレントゲン画像を、異常を見落とすことなく読影するために研鑽し、日常診療にも役立つ「高いレントゲン読影能力」を身につけています。

<呼吸器外科で扱う肺がん>
呼吸器外科では「手術できる肺がん (ステージ1 , 2で切除可能) 」と診断された方を主に担当しています。このステージの肺がんは、転移があったとしても原発巣に近い部分のリンパ節転移だけで、手術で完全に切り取れると判断されるものです。

肺がんと診断された時に分類される「暫定的な」ステージ

これに対して、「手術できない=ステージ3 , 4の進行肺がん」は、例えばがんが大動脈をむしばんでいたり、胸の奥深いリンパ節の中に転移していたり、あるいは脳や骨、肝臓など他の臓器に転移していたりしています。このような、手術では取り切れない肺がんの方は呼吸器内科や放射線治療科が担当して薬物療法や放射線治療が行われます。
<手術アプローチの進化、開胸術から胸腔鏡手術へ>
(左図:胸腔鏡下肺がん手術の様子。全員がモニタ画面を見ながらの手術となります。右図:胸腔鏡下手術で胸に開ける孔の数は3~5か所です。)

胸腔鏡下肺がん手術の様子

胸腔鏡下手術で胸に開ける様子

以前は、胸を大きく開く「開胸術」で肺がんを切除していました。これに対して、内視鏡 (胸腔鏡) を用いて小さな傷で手術をする「胸腔鏡下手術」が出現したのは2000年頃になります。小さな傷での手術は難易度が高いものですが、患者さんは痛みが少ないため回復が早く、結果的に合併症が少なくなるという優れた利点があります。
胸腔鏡手術が開始されたばかりの頃は、画素数など映像器材の性能が低く、手術視野もあまり良くありませんでした。そのため、胸腔鏡での手術成績 (5年生存率) は従来の開胸術とくらべて劣るのではないかという懸念があり、なかなか普及しませんでした。しかし、2011年頃にフルハイビジョン、さらに2015年頃には4Kを用いた胸腔鏡システムが実用化され、画像の進歩に伴って世界中で飛躍的に胸腔鏡手術が広まりました。現在では、全国で行われている肺がん手術の半数以上が胸腔鏡下手術となっています。

<ロボット胸腔鏡手術の導入>
2018年には肺がんの「ロボット胸腔鏡手術」が保険適応となり、肺がんの手術はますます胸腔鏡手術が中心になってきています。ロボット胸腔鏡手術とは胸に差し込む手術器具をすべてロボットアームに接続して遠隔操作するという、最先端の技術を用いた胸腔鏡手術です。宮城県立がんセンターは2021年からロボット支援胸腔鏡下手術を開始し、これまでに約70例以上の肺がん症例をロボット胸腔鏡で行い良好な成績を残しています。
(左:ロボットの操作部分の接眼部。右:カメラ。いずれも立体視できるように両眼が独立してフルハイビジョン (2K) の解像度の光学系となっています。)

ロボットの操作部分の接眼部

カメラ

(下図:1本は内視鏡、残り3本がロボットアームで、これを遠隔操作して肺がんを切除します。)

操作の様子

<さらに小さい傷での手術、単孔式胸腔鏡下手術>
宮城県立がんセンター呼吸器外科では患者さんの状態によっては、「単孔式胸腔鏡下手術」も実施しています。
この手術は胸に500円玉くらいの小さな孔を1つだけ開けて、最大直径5mmの細いカメラと器具を、すべて1つの孔から出し入れして肺がんを切除する胸腔鏡手術です。非常に難易度が高い手術ですが、患者さんの痛みも相当に低減されるという利点があり、症例を選んで実施しています。
とくに、早期肺がんや転移性肺腫瘍に対しては「小さめの」切除範囲が選択されることがあり、中でも「区域切除」と呼ばれる高難度手術を行うことがありますが、当科ではこれを「単孔式胸腔鏡」または「ロボット胸腔鏡」のいずれでも実施可能です。

下のグラフは、昨年まで過去9年間の宮城県立がんセンターでの胸部手術のアプローチ別症例数です。2015年は開胸術が97%を占めていて胸腔鏡手術はわずかに3%でしたが、2019年以降は逆に95%が胸腔鏡下手術となっていて、さらに直近の2年間ではロボット手術や単孔式手術の割合も多くなり、急速にアプローチが変化してきていることがわかります。

アプローチ別の手術症例数

<肺がん術後の再発について>
肺がんを切除できた方でも、摘出したがんを細かく調べた結果、予想より進行してしまっていることがわかる場合があります。そういう方々は手術前にステージ1や2と診断されていても、最終的にはステージ3または4に診断が変更されてしまいます。ステージごとのおおまかな5年生存率はステージ1が80%、ステージ2は50%、ステージ3は30%程度とされていました。しかし最近は肺がんに使えるお薬が目覚ましく進歩しており、ステージ3の5年生存率は以前と比べて大きく改善しています。表のように宮城県立がんセンターの調査でも肺がん術後ステージ3Aの方の5年生存率は50%を超えています。

肺がんの手術成績

<呼吸器外科で担当する肺がんの薬物療法>
呼吸器外科では、肺がんの再発を予防するために術後の抗がん剤治療も実施しています。内服薬や点滴薬などの抗がん剤による再発予防のほか、最近では免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬などの新しい薬物を使用した再発予防の治療が保険適応となっており、いち早く対応しています。
また、これまで切除不能とされてきた症例についても先に放射線治療や化学療法を行うことで切除可能になる場合があり、そのような先行治療も積極的に行っています。(手術できる患者さんを増やすことができます。)
最近、「手術は可能な進行肺がん」と診断した方について、術前に新しい薬物を用いた化学療法を行うことが生存率を向上させることが明らかとなり保険適応されています。これについても当科で対応します。

残念ながら手術後にがんが再発してしまった方については、呼吸器内科と合同でカンファレンスを行い、「どの薬物を使用するか」「放射線治療をどうするか」「新薬の治験はないか」などを検討し、それぞれの患者さんに合わせた最善の治療を提案しています。
必要に応じて、追加での手術、抗がん剤、放射線を組み合わせて治療を行っていますが、こうした治療は「集学的治療」と呼ばれています。基本的には再発された方についても、学会が定める「肺がん診療ガイドライン」に準拠した「標準治療」を行うことを心がけています。

ステージ3A 標準手術後の予後

(当センターで手術をした結果、ステージ3Aの進行肺がんだった方の5年後の再発率と生存率を見たものです。過去の症例 (1998年-2004年、2005年-2009年) と新しい症例 (2010年-2014年) を比べてみると、無再発生存率 (左) はそれほど変わりませんが、全生存率 (右) は新しい方が明らかに良くなっており、術後5年目で70%近くの人が生存しています。再発後10年以上肺がんとの闘病を続けている患者さんも大勢いらっしゃいます。このように、手術そのものは治療効果としてはあまり進歩していないのに対して、薬物療法や放射線治療の進歩が非常に大きく、万一再発したとしても、「がんと共存する」ことが可能な時代となってきています。)
<最近の呼吸器外科手術の技術の進歩に関するトピック>

従来の肺がんの標準手術とは、片肺の2分の1とか3分の1とかを切り取る「肺葉切除」でした。しかし、近年の研究でステージ0 (早期) の肺腺がんや、ステージ1のうち小さくて悪性度の低い肺腺がんについては、もっと小さな範囲の切除で十分である (生存率が変わらない) ということが国内の多施設での共同研究で明らかとなりました。
その結果、このような早期に近い肺腺がんについては、単純にくさび形に切り取る「肺部分切除」や、細かく気管支血管を剥離しながら小さく切除する「肺区域切除」という手術が標準治療になってきています。

CT画像

(図:複雑な肺の構造、動脈 (赤)・静脈 (青)・気管支 (黄色) 。手術前の造影CT検査でこのような画像を作製し、どの血管や気管支を切断するか、術前にシミュレーションを十分に行います。)

「肺区域切除」は従来の標準術式である「肺葉切除」よりもより細かい手術で、高難易度手術に当たります。この「肺区域切除」を、ロボット支援下胸腔鏡や単孔式胸腔鏡で実施することは極めて難易度が高いものですが、こうした手術も当センターで実施可能です。

(図:血管に注入した色素が出す特定の波長の光を特殊な胸腔鏡を使って検出し、切除するべき肺区域を明らかにしていく。こうした手技をロボットや単孔式胸腔鏡で行う高高難易度手術にも対応しています。)

転移性肺腫瘍 (他の臓器に発生したがんの肺への転移)

2014年から2023年まで当科で転移性肺腫瘍の手術を受けた方は151例 (のべ181件) です。大腸がん、腎臓がん、一部の肉腫など、肺以外の臓器に発生したがんや肉腫などは、病気の進行とともに肺へ転移を起こすことがあります。特に大腸癌では、転移した肺の病変も場合によっては切除することが患者さんの生存率の向上につながることが知られており、当科での手術の対象となります。
大腸がん 75
頭頸部がん 33
子宮がん 12
軟部肉腫・骨肉腫 10
胃がん 3
甲状腺がん 3
卵巣がん 3
膀胱がん・尿管がん 3
腎臓がん 3
胸腺がん・胸腺腫 3
肝臓がん 2
腎臓がん 1
合計 151
(表:大腸がんの肺転移が約半数を占めています。次いで咽頭・喉頭や舌などの頭頸部のがんの肺転移の患者さんがよく紹介されてきます。)

転移性肺腫瘍はもともと他の臓器で出来たがんが肺に転移したものなので、何度も再発することがあります。可能であれば何度でも切除した方がその後の生存率が良いとされています。そのため、転移性肺腫瘍の手術では切除する肺はできるだけ小さい範囲とします。当科で複数回の手術を受けた転移性肺腫瘍の方は26例でしたが、そのうち23例に2回、2例に3回、1例に4回の肺の切除を実施しました。

このようにして、181件の転移性肺腫瘍の手術のうち、132件 (73%) が肺の外側にできたもので、器械で小さく肺の一部を切りとる「部分切除」が行われました。49件 (27%) は肺の内側にできてしまった腫瘍で、血管や気管支を離断する複雑な手順が必要でした。そういう手術は「区域切除」または「肺葉切除」と呼ばれています。

当科では、転移性肺腫瘍の「区域切除」に力を入れています。肺をかなり大きく切り取ることになる「肺葉切除」を回避して、可能な限り肺の容積を温存できるので患者さんはその後も複数回の肺の切除が出来るようになるというメリットがあります。

胸腺腫・胸腺がん

胸部で、左右の肺に挟まれた中央の部分 (心臓や大血管、食道などがあるところ) は、「縦隔 (じゅうかく) 」という部分です。ここに出来るがんや腫瘍を「縦隔腫瘍」と呼びます。良性の縦隔腫瘍として、内部に液体をもつ袋状の「のう胞」と呼ばれるものも多いですが、悪性の腫瘍もしばしば発生します。
前胸部にある胸骨という骨の内側に「胸腺」という小さな臓器があり、ここから発生する胸腺腫・胸腺がんの摘出手術が縦隔の手術では最も多いものとなります。
以前は胸骨を縦に切断して大きく胸を開く、「胸骨正中切開」というアプローチで手術されていました。しかし最近では3cm程度の大きさのものならば、内視鏡 (胸腔鏡) やロボット胸腔鏡で切除できるようになっています。