グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



ホーム >  診療科・部門紹介 >  診療科紹介 >  乳腺外科 >  乳腺外科【診療内容】

乳腺外科【診療内容】


診療内容

乳がん治療の考え方

治療に際しては、患者さんとご家族には保険診療で行える標準治療をまず提示しますが、それが最良の治療とは限らないこともあります。標準治療とそれ以外の治療を行った場合の期待される利益と不利益を、患者さんごとに書面を作成して説明をして、「難しいことはわからないので先生にお任せしますが、できれば抗がん剤はしたくないですね」などの意向をお聞きしながら治療方法を相談します (皆さん、できれば手術や抗がん剤をやりたくないのは承知していますが) 。
もちろん、「命に関わることなので30分程度の説明では決められない」という患者さんやご家族もいらっしゃいます。ここでは、乳がんの診療を理解する上で押さえておきたいポイントについて、単純化してわかりやすいことばでお話しすることを試みましたので、治療方法を決定する際の参考にしていただければ幸いです。最新の情報を具体的に知りたい (乳腺専門医が話す内容とほぼ同じ) 人は、日本乳癌学会が編集している「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」のインターネットでの閲覧や書籍購入をお勧めします。

乳がんの発生部位と症状

乳がんは、両胸にある乳腺から発生する悪性腫瘍です。母乳を作る小葉や母乳を運ぶ乳管の中の細胞が、遺伝子の変化によって悪性化してがん細胞になると自分勝手に増えはじめます。そのまま放置しておくと、本来あるべきではない場所にがん細胞がどんどん増えていき、いろいろな症状を伴うようになり、最終的にその人の命を脅かすことになります。
乳がんの初期症状は乳房のしこりのことが多いのですが、乳房が大きい人や乳がんが乳腺の深いところにできた場合はしこりを触れにくいため、痛みや違和感だけのこともあります。乳がんが進行すると乳房の変形や左右差が見られるようになり、腋の下 (腋窩) にしこりが触れることもあります。また、乳がんの発生する部位によっては、早期から乳頭からの分泌物 (血混じり) や乳頭のただれが見られることがあります。

乳腺の模式図

乳がんの確定診断

乳がん検診で要精密検査となるか、自分で症状を感じて医療機関を受診した人には精密検査が行われます。検査の第一段階としては視触診、マンモグラフィ、超音波検査が行われ、顕微鏡で組織を調べた方が良いと判断された場合には針生検が行われます。針生検では、乳がんかどうかの診断とともに、どんな乳がんか (細胞や構造の異常の程度・ホルモン受容体・HER2タンパク・増殖能力など) を調べて治療の参考にします。

乳がんの進行度の評価

乳がんを過不足なく治療するためには、乳がん細胞がどこまで進行しているかについての正確な診断が必要です。治療前には下記の1)乳房内のがんの進行状況2)リンパ行性転移3)血行性転移を評価します。評価のためには視触診に加えて画像診断 (マンモグラフィ・超音波検査・乳房MRI検査やCT検査) を必要に応じて行い、血行性転移が疑われる場合は、それぞれの部位のMRI検査やPET-CT検査を行うこともあります。
1) 乳房内のがんの進行状況
a. 非浸潤癌
がん細胞がまだ乳管や小葉の中にとどまっている段階は非浸潤がんといいます。非浸潤がんは乳がん検診で診断されることが多く、理論上転移は起きませんので、手術で完全に切除されればそれだけで完治します。ただし、針生検で非浸潤癌という結果だったとしても、針生検は病変の一部しか見ていませんので、その病変全体が非浸潤癌なのかどうかの保証にはなりません。細胞の異常の程度や画像診断である程度の推測は可能ですが、浸潤がんがあると仮定して手術をする場合が多く、最終的には切除した組織全体を顕微鏡で見て、浸潤部分の有無を診断します。
b. 浸潤がん
非浸潤がんは、時間が経つと多くの場合がん細胞が乳管や小葉の外に増殖して浸潤がんになります。浸潤がんを放置すると、その場所でがん細胞が増えていき、皮膚や筋肉に達して出血や痛みなどを伴うようになり、さらにがん細胞が肋骨まで浸潤すると、手術で切除することが難しくなります。困ったことに、浸潤がんは小さいうちからリンパ行性転移や血行性転移が起こる可能性があり、浸潤がんが大きくなるにしたがってその確率が高くなります。
c. 乳がんの広がり、多発
乳がんは、明らかな腫瘍を作らずに乳房の中を広い範囲に進展していることがありますので、手術でどこまで切除するかを決定する際には正確な画像診断が必要です。また、乳がんと診断された病変以外にも偶然別の乳がんが発生している場合もありますので、画像診断で別の病変がある場合には追加の細胞診や針生検を行います。

乳がんのは発生・進展・浸潤

2) リンパ行性転移
a. 乳房のリンパの流れとセンチネル (見張り) リンパ節
体の中には余分な水分や老廃物などを回収するリンパ管がはりめぐらされていて、要所に濾過器の役割をするリンパ節があります。乳房のリンパ液の多くは脇の下 (腋窩:えきか) に流れていきます。腋窩にはリンパ節が10〜20個程度あって (腋窩リンパ節) 、網目状にリンパ管で繋がっています。腋窩に達したリンパ液は、鎖骨の後ろを通って鎖骨の上 (鎖骨上リンパ節) に流れて行きます。それほど量は多くありませんが、乳房の内側や深い部分にあるリンパ液は、肋骨の間を通って胸の中心の浅いところ (内胸リンパ節) に流れることがあります。
浸潤がんがリンパ管に入り込むと、リンパの流れに乗ってリンパ節に辿り着き、その場でがん細胞が増殖をしたのがリンパ節転移です。リンパ節転移は、基本的には乳がんから近いリンパ節から転移を始め、乳がんが最初に流れ着くリンパ節をセンチネルリンパ節 (センチネルには見張りという意味があります) と呼んでいます。センチネルリンパ節に転移がなければ、その先のリンパ節に対する治療は不要と考えても良いとされています。
乳がんがある側の鎖骨上リンパ節までを領域リンパ節といいます。さらに乳がんが進行すると、胸の奥のリンパ節 (縦隔リンパ節) や反対側の鎖骨上リンパ節に転移したり、反対側の乳房のリンパ流を通って反対側の腋窩リンパ節に転移することがあります。これらのリンパ節は遠隔リンパ節と呼ばれ、治療対象としては遠隔転移に分類されています。
b. リンパ節転移の診断と症状
リンパ節転移が小さいうちは画像診断では指摘できず、顕微鏡で見ないとわからないことがあります。正常よりリンパ節が腫れている場合や、部分的にコブを作っている場合などは転移を疑いますが、炎症や他の理由でもリンパ節が腫れることがありますので、必要がある場合には細胞をとって顕微鏡で調べる検査 (細胞診) を行います。
リンパ節転移だけでは命に関わることはありませんが、腋窩リンパ節転移が大きくなると (例えば自分で触れるくらい) リンパの流れが悪くなり水分がだぶついてきますので、乳房や腕がむくむことがあります。さらに大きくなると、リンパ節を超えて腕に行く神経に浸潤して、腕の痛みや麻痺を起こすことがあります。また、リンパ節転移個数が多くなるにつれて血行性転移の可能性が高いことが証明されています。

リンパの流れの模式図(1)

リンパの流れの模式図(2)

3) 血行性転移
a. 微小転移
体の中には酸素や栄養物を運ぶために血管が張りめぐらされています。浸潤がんが血管に入り込むと血流に乗りますので、全身のどの部分にたどり着いてもおかしくない状況になります。多くのがん細胞は血液の中やたどり着いた場所で死んでしまうのですが、たどり着いた先の環境が生存に適していたり、たどり着いた細胞が多かったりすると、がん細胞は生き残ってその場で増殖を始めます。この最初の段階を微小転移といいます。この段階では、自覚症状が出ることはなく、画像検査でもわかりません。血液中の微量な成分の研究も行われていますが、現時点では、乳房内のがんの組織や進行状況、リンパ節転移の個数などによって微小転移があるかどうかを推測するしかありません。血行性転移が微小転移のうちは、薬物療法によってかなりの割合で完治できることが多くの研究で証明されています。
b. 遠隔転移
微小転移が腫瘍として画像検査で指摘できる大きさ (だいたい5mm〜1cm以上) になった場合が遠隔転移と診断されたことになります。乳がんの遠隔転移先は骨、肺、胸膜、肝臓などに多くみられ、稀に脳や腹膜などにも転移します。転移先でがんが増殖すると、骨の痛み、咳や呼吸困難、黄疸、意識障害などが出て、命に関わるようになります。
遠隔転移と診断される (ステージ4) までがんが増えると、薬物療法などで腫瘍を小さくすることはできても、完治させることは困難になります。がんと上手に付き合ってできるだけ長く日常生活が送れるかが治療の目標になります。ただし、近年の薬物療法の進歩は目覚ましく、遠隔転移と診断されても一定の割合で治る人が出る治療薬も開発されています。
※一般的にはリンパ節転移も遠隔転移に分類されますが、乳がんの治療を説明する際には両者を別にした方が理解しやすいので、ここではこの3つの分類にしています。

乳がん治療の方法

乳がんの治療は手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせて行われます。具体的な治療方法は患者さん個人によって大きく異なりますので、ここでは治療の原則だけをお話しします。手術と放射線治療は治療したその場所 (乳房やリンパ節) だけしか効果がないので局所療法、薬物療法は血流に乗って全身で効果を発揮しますので全身療法と呼ばれます。また、治療対象としては画像で乳がんがあると確認できる部位への治療と、画像では確認できない小さな転移に対する予防があります。
手術:がんがあるとわかっている部分は、手術で取り除くことが100%確実な治療です。手術に際しては、術前に正確な画像診断を行い、必要に応じて手術中に病理検査を追加して、必要かつ十分な切除を心がける必要があります。乳房に対する術式は乳房部分切除術と乳房全摘術が、腋窩リンパ節に対しては、センチネルリンパ節生検と腋窩郭清術があります。手術によって術後の痛み、体の変化などが残りますが、それらを低減する術式も研究されています。
放射線治療:がん細胞のDNAを傷つけて破壊します。がん細胞よりも正常な細胞の回復力が高いので、がん細胞に対して効果が期待できて、健康な組織に影響がすくないように工夫して放射線の範囲と量を決定します。放射線治療は、手術では完全に取りきれなかった可能性がある乳房やリンパ節に対して予防的に行われることが多いのですが、手術が難しい腫瘍にも行われることがあります。乳がん細胞は一般的に放射線が良く効くことが多いのですが、効果は100%ではありません。また、正常組織にもダメージが残ることがあります。
薬物療法:がん細胞は正常の細胞と違ったしくみで増えるので、薬によってがん細胞の分裂を止めたりDNAを傷つけて破壊したります。乳がんの薬物療法には化学療法、ホルモン療法、分子標的治療があり、薬物は全身に行き渡ることから血行性転移の予防や治療を行うことができます。がんの治療に使用される薬は毎年のように開発されていて、その度に治療効果が改善しています。薬物療法は全身治療ですが、有力な局所治療の方法でもあります。ある条件を満たせば、手術前に薬物療法を行うと50%以上の人でがん細胞が消えたという報告もあり、局所のがん細胞が減れば手術や放射線治療を軽減できる可能性が出てきます。将来、素晴らしく効果のある薬物療法が開発されれば、手術や放射線治療は不要になりますが、がんは一筋縄ではいかないようです。

乳がんの進行度における部位・目的別の治療方針

・非浸潤がん (ステージ0) の場合:手術で乳がんの切除を行い、乳房温存手術の場合は放射線治療による温存乳房内再発の予防を考慮します。薬物による全身療法は基本的には行いません。
・遠隔転移のない浸潤がん (ステージ1〜3) の場合:乳がんの切除と温存乳房内再発の予防はステージ0と同様ですが、リンパ行性転移の程度によって、センチネルリンパ節生検 (手術中に転移がないか調べる) → リンパ節郭清術 (リンパ節を複数切除) → 領域リンパ節に放射線治療 (予防の場合と治療の場合がある) が行われます。また、ステージが進行するに従って、血行性転移 (微小転移) の可能性が高くなることから、薬物療法が治療の中心になってきます。
・遠隔転移がある (ステージ4) 場合:薬物による全身療法が治療の中心になります。がんがその場所で症状を伴う場合 (出血、痛みなど) は、生活の質を改善するために手術や症状緩和のための放射線治療が行われます。

図

乳がんの再発

再発とは、画像で診断できる大きさの乳がん組織は最初の治療で消滅したけれど、実は顕微鏡で見ないとわからないような小さながん細胞の塊が全身のどこか (乳房内・リンパ行性転移・血行性転移) に残っていて、治療開始からある期間が経ったあとに画像で診断できる大きさになった状況といえます。乳房部分切除術のあとに同じ乳房内に新しく乳がんが発生した場合も再発に含まれます。再発までの期間は、数ヶ月のこともありますが、乳がんは治療後10年以上経過してから診断されることもあります。

再発予防の治療について

再発予防の治療とは、画像で診断できない小さながん細胞の塊を対象とした治療と言い換えることができます。再発予防は局所療法としては主に放射線治療、全身治療としては薬物療法が行われます。特に血行性転移の再発 (遠隔転移) があると完治は難しくなりますので、微小転移のうちに治療をしてがん細胞を根絶することが大切です。ただし、再発予防の治療の難しいところは、本当に治療が必要なのかどうかが正確にはわからないこと、100%再発を防げる治療法はないこと、治療には高額な医療費や重篤な副作用などの不利益が伴う場合があることなどが挙げられます。どの程度の再発予防の治療を行うかについては、がん組織の特徴や進行度なども考慮し、必要があればご本人の遺伝子 (BRCA遺伝子) やがん組織の遺伝子を検査して (オンコタイプDX) 、期待される利益と予想される不利益を提示して、患者さんと相談しながら決めていきます。

乳がんになったらどうすれば良いの?

ここまで乳がんとその治療法の基本的な事項を解説させていただきました。少し難しいところもあったかと思いますが、このページが少しでも乳がんの治療を理解するする際のお役に立てば幸いです。
最後に乳がんになった「人」についての話題です。現在まで、がんに対しては遺伝子や分子レベルまで多くの研究が進んでいますが、がんになった人についての研究はなかなか進んでいません。なぜなら、いろいろな条件を揃えて実験するといった方法が人に対しては取れませんので、科学的な根拠がつくりにくいことが一因として挙げられます。例えば、ストレスのある生活を続けた人は常に交感神経が優位で免疫力が低下しているため再発しやすくなるという仮説を立てても、それを証明するためにステージが同じ乳がんの人を200人集めて、100人はストレスのある生活を100人はストレスのない生活を5年間続けてもらって、両群の再発率や予後を確かめるといった研究は倫理的にも不可能だからです。また、患者さんの生活背景は多種多様で、ストレスのある生活という定義も人それぞれです。
私が「乳がんになったらどうすれば良いの?」と聞かれた時には、「乳がんと戦う体制を整えてください」とお話ししています。ただ、特別なことをするということではなくて、「ストレスのない (少ない) 生活」「バランスの良い食生活」「適度な運動」「十分な睡眠」を心ががけることをお勧めしています。患者さんの生活背景や個人の価値観を聞き取る十分な時間があれば、患者さんに具体的なアドバイスを行うこともできるのですが、実際は難しい場合も多いと感じています。
当院では、治療方法の選択や日常生活に対して不安や迷いを抱えている人のために乳がん看護外来を設置しています。経験豊富な乳がん看護・化学療法認定看護師・化学療法認定看護師が「乳房温存手術と全摘の違い」「乳房再建の方法と経過」「抗がん剤の副作用とその対策」「HBOCの検査の意義」「治療をしながら仕事が続けられるか」「家族とどう接したら良いか」「医療費」などについて、個別に1時間の枠を取って相談に乗っています。乳がん看護外来が必要ともわれる人には主治医から声をかけていますが、希望される場合は遠慮なくお話しくだいさ。また、院外で治療を行っている人にも対応していますので、地域連携室を通して受診の申し込みをしてみてください。