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発がん制御研究部


研究員構成

安田 純 部長
東北大学東北メディカル・メガバンク客員教授
山口 壹範 上席主任研究員
東北大学医学系研究科連携講座 がんウイルス学分野 教授
伊藤 信 研究員
高梨 友花 技術員
初沢 悠人 博士課程(東北大学消化器外科)
菅村 和夫 特任部長
東北大学医学系研究科 客員教授・名誉教授

研究紹介

近年、腫瘍は均一でクローナルな細胞集団ではなく、異なる性質をもった亜集団(subpopulation)により構成されていることが知られてきた。中でも「がん幹細胞」は自己複製能、増殖分化能、抗がん剤耐性を併せ持つことから、腫瘍の悪性形質の中心に位置付けられている。がん幹細胞の存在は、急性骨髄性白血病、脳腫瘍、乳がん等のがん種で報告され、今日、他の多くのがん種においても究極の治療標的として注目されている。当研究部では、NOGマウスを用いて種々のヒトがんにおけるがん幹細胞の同定と治療標的分子の探索を目指している。NOGマウスは当研究部の菅村らが樹立したサイトカイン受容体γc鎖欠損マウスとNOD-scid免疫不全マウスを交配して樹立された超免疫不全マウスであり、種々のヒトがん細胞の移植が可能なことから、がん幹細胞の選別に最適な系として知られている。我々は、このNOGマウスへの腫瘍移植系を活用することで、腫瘍悪性形質の発生・維持機構を解明し、最終的に種々のヒトがんに対する新規分子標的治療法や悪性度診断法の開発を目指している。

なお、平成30年度からは東北大学より安田純が着任した。これまでの当研究室の業績を生かしながら今後、がんの個別化医療を目指したゲノム解析研究にも着手する。具体的には早晩保険収載が期待されるがんの遺伝子パネル診断の研究面からの支援や、得られる遺伝子情報を活用したリキッドバイオプシーなど各種の解析技術の開発など、がんのゲノム医療の実現に資する研究開発を推進する

現在の研究課題

1.がんゲノム医療の支援のための研究開発

分子標的薬剤の開発の進展と、次世代シークエンサーによるがんのゲノム診断技術の進歩によって、がんを惹起するドライバー変異に対して適切な抗がん剤を投与すればこれまで経験されなかったような顕著な治療効果が得られる症例が出現してきた。また、近年注目されている免疫チェックポイント療法も、がんのゲノム異常が高度に蓄積している症例に有効性が高いことも知られてきている。一方で、ゲノム解析は高額であるにも関わらず、必ずしもすべての患者に福音をもたらすわけではない。例えば上記のような奏効する分子標的薬剤を選択可能な症例は2018年の時点で全体の1割から4割と見積もられており、残りの患者には現在でもゲノム解析の恩恵があるとは言いにくい。保険収載され、日常的にがん遺伝子の変異情報を臨床に有効活用していくために、当研究室では以下の取り組みを実施する。

1)リキッドバイオプシー(がん組織でなく血液でのがんゲノム診断)の研究開発

2)遺伝子パネル検査結果の分析や解釈のための知識や経験を持つ生命情報科学技術の開発

3)遺伝子パネル検査結果のさらなる活用のためのデータベース整備と新規分析技術の開発

1)はオーダーメイドの腫瘍マーカーとして樹立される。結果として組織生検などの患者への負担の軽減や遠隔地から画像診断を受けるために来院する手間などが省けるなど、患者への利益の大きな技術開発である。2)は日進月歩の化学療法の進歩を踏まえ、患者のがんゲノム情報に基づいて遅滞なく新規治験などへの参加勧奨などを実施することが可能になる。3)は今後再発など、患者のフォローアップに際してゲノム情報が活用できる可能性を探索するために必要な取り組みである。これらによって、がんゲノム診断に際し、適切な薬剤の見つからない患者へも何らかの恩恵が得られることが期待される。

2.ATLの造腫瘍性に関わるCA9の役割と免疫治療法の開発

ATLはHTLV-I (human T-cell leukemia virus type I)感染から数十年を経て発症し、その病態には急性型、慢性型、リンパ腫型、くすぶり型の4型が存在する。これら病型間で悪性度に大きな違いがあるが、その発症機序については未だ不明な点が多い。本センター血液内科診療科長の佐々木治医師(研究所特任研究員を兼務)らと共に、NOGマウスにおける造腫瘍性を悪性度の指標として、造腫瘍性に関わる機能分子の同定を行なっている。

ATL由来細胞株ST1をNOGマウスに移植継代して得られたST1-N6細胞株はAKTシグナル伝達系の持続的な活性化とNOGマウスにおける強い造腫瘍性を示した(Cancer Sci. 2016)。ST1-N6と親株ST1に発現する遺伝子を比較解析し、ST1-N6で高発現するCA9(carbonic anhydrase IX、炭酸脱水酵素)を同定した。ST1細胞へ野生型CA9を導入すると、造腫瘍性の増強が誘導されるが、CA9酵素活性欠失変異型を導入すると、造腫瘍性の増強は見られなかった。また、CA9shRNA導入によりST1高発現細胞の造腫瘍性は抑制された。これらの結果から、ATL由来ST1細胞の造腫瘍性にCA9酵素活性が深く関わっていることが明らかになった。他方、ATL患者由来リンパ節組織において、CA9+CD25+ATL細胞が検出されたことから、リンパ腫型ATLの悪性形質とCA9発現との関連性が示唆された。従来、CA9は二酸化炭素と水から重炭酸イオンと水素イオンを生成する酵素であり、低酸素下での腫瘍組織のpH調整に関わることが知られており、ATLでの造腫瘍性への関与も想定される。現在、CA9に対するヒト化単クロン抗体を調製し、リンパ腫型ATLに対する免疫療法の可能性を追求している。このほかST1-N6で見られた代謝変動や細胞間接着に関しても検討を行なっている。

3.遺伝子改変NK細胞を用いたがん免疫療法の開発

自然免疫を担うNatural killer細胞(NK細胞)は、細菌やウイルスに感染した細胞だけでなく、発生初期のがん細胞排除にも機能していることが知られているが、同様の機能を持つT細胞に比較してがん治療への応用は遅れている。現在注目されているキメラ抗原受容体導入T細胞(CAR-T)は、患者T細胞に腫瘍認識抗体とシグナル分子の融合遺伝子を導入した細胞で、患者に再移入した場合、腫瘍に集積し細胞障害活性を示す。肺がんやメラノーマなど難治性がんに対して、短期の腫瘍退縮、長期の腫瘍抑制効果を示す例も報告されているが、一方で細胞の調製に期間を要する、治療費が高額になる、などの問題も指摘されている。これらの問題を克服するため、T細胞と同様に細胞障害活性をもつNK細胞に我々は着目し、特に臨床試験でヒトへの投与に関する安全性が示されている樹立NK細胞株(NK-92)を対象に、がん免疫療法開発に向けた基礎研究を進めている。NK-92は各種がん細胞株に対する細胞障害活性が極めて高いが、さらにFc受容体やCARを発現させることにより、腫瘍特異的な細胞障害活性を亢進させることに成功した。現在、CA9、IL-2Rβ、CD271(がん幹細胞研究部との共同研究)を標的分子とした治療用NK細胞の作成に取り組み、免疫不全NOGマウスを用いたin vivo移植系での有効性などを検証している。さらに、NK細胞の腫瘍への集積を高めるための遺伝子改変も進めている。

4.膵がんにおけるがん関連遺伝子の機能解析

膵がんは消化器がんの中でも特に難治性で、新たな治療法の開発が強く望まれている。これまで研究部で解析を進めてきたCA9に加え、TGFβシグナルの調節因子CD109の膵がんにおける機能解析を進めている(東北大医学部消化器外科との共同研究)。